コラム

イラスト:鈴木ハルナ


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PostHeaderIcon 相談員コラム… お小遣い制の不条理②


 前回の続き。お小遣い制の理不尽さとそれと引き替えのブラックなワンオペ家事・育児。どうしてこんな事になるのか? それは外で働き収入を得る賃労働と、家で家事・育児をする家事労働の不公平感にあると思う。お互い納得していないので「なんで自分ばっかり」という不満になって蓄積する。

 前も言った通り生活をシェアすれば「数の論理」で経済的に豊かになり、家事分担で生活は楽になり、万が一の場合の安心のセーフティーネットも強化されるはずだ。私の友人との4年間のシェア生活の経験からもそれは言える。しかし「結婚」(法律婚でも事実婚でも)ではそうはならないようだ。何故かと言えば、家事労働の曖昧さにあると思う。

 今時、家事手伝いの境遇から、そのまま結婚へという人はあまりいないだろうから、男性も女性も正規でも非正規でも賃労働の経験はある。だから賃労働の大変さ、職場の人間関係のしんどさは身をもってわかっている。賃金が安くても高くてもお金を稼ぐのに楽な仕事はないことは理解できる。

 しかし、家事労働に関してはその経験値はあまりに個人差が大きく、しかもあまり重要視されていない。一人暮らしが長く何でもできる人から、実家暮らしですべて親にやってもらいリンゴの皮すらむけない人まで、男女を問わずいる。コンビニに行けばカットされたリンゴを売っているからあまり不便もないし、結婚で問われるのは「年収」で、「家事能力」はあまり問題にされない。

 ただ家事労働をしたことはなくても食事作り、掃除、洗濯など家事労働なくして共同生活はないので、この部分を「好き」(無償の愛)で曖昧にして相手に押しつけると、後から大きなしっぺ返しが来る。これが昨年の大ヒットドラマ「逃げ恥」の主人公みくりのいう「好きの搾取」だ。だから賃労働と家事労働を折半し、お互いが納得した上でないと公平感のある「お小遣い」は決められない。

 今でこそ「家事労働」という言葉を平気で使うが、シャドウワーク(隠れた労働)と言われた家事・育児に「労働」が付くまでには涙ぐましい歴史がある。「逃げ恥」は夫を雇用主、妻を従業員とする契約結婚で、家事労働を月に19.4万円と計算した。若い人にはこの「家事労働を賃金換算する」という家事労働の数値化が新鮮だったようだ。でもこれは私が学生だった頃(40年程前)にも盛んに議論されたテーマであった。ただ実際に夫婦間で給与が支払われる訳でもなく、相変わらず無償で「やって当たり前」の感謝されない労働のまま今に至る。それでも賃金換算という考え方は曖昧な家事労働の明確化には一理あると思っている。

 家事労働の賃金換算は、内閣府から5年おきに出される「家事活動等の評価について」という報告が代表的なものである。その方法は大きく分けて「機会費用法」と「代替費用法」の2つ。「機会費用法」は「家事をした時間を他で働いたらいくらになるか?」という計算方法で、「逃げ恥」もこれを採用している。一方「代替費用法」というのは「家事を誰かに頼んだらいくらか?」という計算方法で細かく分けると「専門職(クリーニング屋さんや出前など)に頼む」のと「家事使用者(家政婦さんやシッターさん)に頼む」とに分かれる。今時は「家事代行」という選択肢もある。

 金額的には「代替費用法」の方が高くて、女性の平均賃金から算出する「機会費用法」の方が安い。では「機会費用法」でいくらなのか? テレビ放映のあと出版された『「逃げ恥」に見る結婚の経済学』(毎日新聞出版)によると、女性全体の平均賃金は1時間当たり1383円(2013年版)で専業主婦の平均家事労働時間は2199時間。かけると年収は304.1万円の経済価値となる。逃げ恥の場合は契約結婚なので土日は休日で17時間労働として計算して月収19.4万円という計算になっている。その中から共同生活の家賃、光熱費、食費などコストを折半で負担して引いた金額が主人公ミクリの手取り月給91500円になる。

 多いか少ないかは「お小遣い」と同じく立場によるだろう。問題は前出の本の帯びタイトルにある『年収600万円未満の夫は専業主婦の妻に「好きの搾取」をしている!?』この1点だ。家事労働を経済的価値に換算すると、専業主婦ですら夫の年収が低ければ家事を100%やって当たり前とはならない。まして共稼ぎなら尚更だ。賃労働の収入の多寡で家事分担も増減するが、この前提を共有していないと「お小遣い」は決められないのだ。

 さて、ちょっと話は変わるが「お小遣い」という言葉が嫌なので、何か他にないだろうかとつれあいに相談したら『それなら「活動費」だろう。』とアドバイスされた。なるほど、配偶者の承認なく使える自由なお金は自分自身の活動のために使われる。趣味だったり、同僚や友人との会食だったり、雑誌や本、映画やイベント、気に入った物の購入などで、つまり衣食住+αのαの部分。水道代のように生活にどうしても必要な費用ではないが、人生にとっては大事な部分だ。とても良いアイデアなので、家計費の中に「○○(個人名)の活動費」が加わることになった。このαの部分が生活を豊かにしている、そして一番大きな声で言いたいのだが、それは男にも女にも活動費が必要だということだ。

 最初の「夫の小遣いを減らしたい」という相談には「お小遣いは生活にとって必需ではないけれど、冗長な費用ではなく人生を豊かにするもの。お昼代は別にして、もっと家計費をスリム化してそれぞれの活動費=自由なお金をつくりませんか。その方が働くモチベーションあがりますよ。」と回答した。

 それでも「これから教育費もかかるし、老後も心配だし」とおっしゃる。そういうお金の心配や不安をひとつひとつ明らかにして対策して、その上でいま安心して使えるお金をはっきりするのがファイナンシャルプランだと私は思っていると伝えた。家計簿もキャッシュフロー表も「活動費=自由に使えるお金」を増やすためのものだと説得したら「なるほどね」と胸にストンと落ちて、やる気になったようだった。妻だって「やりくり」や「へそくり」でコソコソ美容院代や化粧品代や友人とのお茶代を捻出するより、堂々と「活動費」があった方がいい。まじめに家計管理しているとつい「将来にそなえなくっちゃ」と思いがちだが「いま」を犠牲にしてはならない。

 生活費の負担割合、家事労働の分担、それぞれの活動費、基本的に半々になるのが望ましい。でも病気や怪我で働けなかったり、リストラされたり、子供がいたり、介護を抱えたりとそれぞれの事情もある。そのつど相談するしかないが、くれぐれも「普通は」と世間相場を持ち出さないでじっくり話して欲しい。

 最後に「活動費」の使い方について。自由なお金なのだから相手の好きなことは尊重して干渉してはならないが、相手への気遣いは必要だ。数十年前、お互い安月給だった友人とのシェア生活で、彼女がボーナスが出ると買って来てくれたエビスの瓶ビールが今でも忘れられない。リッチな時の豪勢なプレゼントより、少ない給与から買って来てくれるちょっとしたプレゼントは心にしみるものだ。家庭生活だって誕生日や母の日、父の日など義務感でするイベントのプレゼントより、帰り道ちょっと買って来てくれたなんてことの無い鯛焼きの方が私はうれしい。

 

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